林:いい言葉。大気圏内の生物か。

ヤマザキ:ノミもアリも、みんな大気圏内の生物じゃないですか。虫とは意思の疎通ができないけど、共生できていける。たぶん私が昆虫好きだったことが、海外に出ていっても平気だった理由だと思いますね。最初から「通じ合える」とか「わかってくれる」と思わないで行く。でも、互いの生態系を敬いながら一緒に生きる。大気圏内の生き物という認識以上は必要ありません。

林:そう思えば、新型コロナウイルスも大気圏内の生物ですか。

ヤマザキ:そう。だからコロナ蔓延に対しても不条理なことが起こったなんて思ってません。こんなこと言うと非難されちゃうけど、「このときしかできない考えごとができる。この時代にしかやれないことがやれる」みたいな感じですね、私は。

林:作家も記録する義務があるので、よく見ておこうと思ってます。

ヤマザキ:世界中が同じ問題と向き合うことって、なかなかないですもんね。これが第3次世界大戦とかじゃなくてよかったなと思います。ちっちゃなウイルスが、場合によっては人を殺してしまうこともあるけど、大気圏内の現象としてはいつの時代にもあったことで、私たち人類は今までそれを乗り越えてきたわけですよね。自然と折り合いをつけ、生き延びれる人は生き延びていく。

林:戦争と違って、憎しみのために殺されることないですもんね。

ヤマザキ:そうなんです。コロナウイルスを「敵だ」とか「戦争だ」とか「戦いだ」とか言うけど、ああいう言い方も私には人間至上主義的なおごりがあるように聞こえて、「人間だけが生き残ればいいんですか?」と思うわけですよ。

林:ヤマザキさんはおうちが世田谷だそうですね。それも緑がたくさんあるところ。

ヤマザキ:私、自然育ちなんで、都会にいても自然がないとダメなんです。都内なのにワイルドな渓谷がそばにある場所で、今、うちのベランダに53匹のカブトムシの幼虫がいて、サナギになってるんですが、それが羽化したら、渓谷に向かって飛んでいくという予定(笑)。

林:いやあ、今日はほんとにすごい話を聞かせていただきました。何だか話が尽きないし、すごい元気もらっちゃいましたよ。

(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)

週刊朝日  2020年7月3日号より抜粋