こうした考え方の先駆けとなったのが、東京大学名誉教授、光岡知足先生の腸内細菌の研究です。光岡先生は、1950年代に腸内の様々な細菌は共生し、一つの生態系を作っているという発想で研究を本格化させました。近ごろよく聞く腸内フローラ(腸内細菌叢)というとらえ方です。

 腸内細菌を善玉菌、悪玉菌、日和見菌に分けて説明したのも光岡先生です。私もお会いしたことがありますが、その研究の先駆性から、ノーベル賞をとるのではと言われていました。
 その光岡先生はこうおっしゃっています。

「無菌であることが体に良いわけではないのです。近年、急増しているアトピーや花粉症などのアレルギー疾患も、菌たちを遠ざけてきた私たちの生き方によって免疫の過剰反応を引き起されたと考えられます。今後は菌たちを遠ざけるのではなく、賢くつきあっていく知恵が必要でしょう」(『人の健康は腸内細菌で決まる!』技術評論社)

週刊朝日  2020年6月26日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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