ヨコオさんは、コロナから逃げずに、いっそ、コロナと共生してやろうと考えだし、過去に描かれた御自分の人物画に、大きなマスクをかぶせた絵をつくり、次々ツイッターで、友人関係に送られはじめました。マスクのない其(そ)の絵が、そもそも迫力があるのに、それを覆うように大きなマスクで否定した力強さが、強烈で、見たものは、思わず、目を見開いてしまいます。

「こんなの、ダメだよ! 信じちゃいけないよ!」

 新しい絵は、過去の絵を否定して、マスクのかげで、大きな美しい声をたてているようです。なまめかしい美人も、世紀の名画の人物も、みんなマスクで、顔半分覆われているので、見る人々は、画面から、バカにされているように思います。

 笑っている口元に、大きな舌がダラリととび出して、目がギラギラ光っているのを見ると、それを見ている自分が、絵の人物に心からバカにされているのがわかって、居たたまれない気になるのです。

 なるほど、世の中の、移り変わりや、天変地異など、恐れることはないのだ、何千年昔から、こんなことは繰り返してきて、人類は、流されたり、埋められたり、飛ばされたりして、生き続けてきているのだと、今更のように気付くわけなのです。

 人間が関わっている事件も、事故も、よく考えれば、過去にあったことの繰り返しです。

 何千年たっても、まだ、人の命の確かな行方もわからなければ、どこから来るのかもわかりません。

 足が少々長くなったり、乳房が大きくなったりしたところで、人間が生まれるのは、鳥や犬と同じようなことをして、人の命が造られているのです。

 つい最近、十三歳で北朝鮮に拉致された横田めぐみさんのお父上の滋さんが亡くなりましたね。二年ほど前から、寝たきりになっていたらしいけれど、ずっとめぐみさんのことを想い続けていたということです。

 何が悪いといって、生きた人間を拉致するなんて、ひどいことだと思います。

 これほど進歩した世の中になって、こんな原始的なことがまだ行われているなんて、人間はなんという阿呆な動物なのでしょう。残されためぐみさんの母上が、がっくり力を落とさないよう、ひたすら祈るばかりです。

 それにしてもヨコオさんの「WITH CORONA」のマスク、うちにも早く送ってください、高くても払うよう、お金の用意はしてますよ!! スタッフの分も入れて五人分です。

 お願いします。寂

週刊朝日  2020年6月26日号