弟子の稽古もズームでやった。自粛中に「新作落語を作る」という課題を出してその発表会。弟子の落語を聴いている私の顔が画面の片隅に映っている。お世辞抜きに『殺人鬼』である。『連続殺人鬼が1万円チャージしたSuicaを落とした』ような顔。この顔では弟子があまりにかわいそうなので、無理してちょっと笑顔を作ってみたら『連続爆弾魔がガリガリ君当たった』くらいの顔になった。モニターの自分の顔ばかり気にしてたら弟子の落語がまるで頭に入ってこない。ちっとは笑わせてくれ。師匠に気を使わせんな。

 子どもたちの学校が再開されたが、半分はリモートで授業をするという。長男(14)は朝からパソコンに向かっている。ホームルーム。後ろから画面を覗き込むと「映り込むからあっち行けっ!」と邪険なあつかい。父はさびしい。次男(12)もタブレットに向かって国語の授業中。今日が今学期初めての授業だという。そうか、一度登校日はあったけど、それっきりだったのだ。「担任の先生はどんな人?」と聞くと「お父さんと同い年くらいのおじさん」だと。確かめてみようかとタブレットを覗くと『ロマンスグレーの石丸謙二郎』みたいないい声のダンディー。どこが俺と同い年だよ!? 娘(10)の担任は「『四千頭身の真ん中』に似てる」という。思わず「あ! ホント! 後藤そっくり!」と叫んでしまったら、先生から「よく言われますー」とタブレット越しに返事。

 そんなリモート生活です。

週刊朝日  2020年6月26日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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