「事前に対応策を考えておこうと、地元の自治体と保健所を訪ねて聞いてみました。保健所はまず調査するとし、消毒はみなさんでやってくださいとのことでした。行政としては特定の業者を紹介することができませんという話でした」

 とはいえ、専門知識がないと、消毒作業をどこに頼んでいいのかわからない。本瀬さんは業界団体があると知り、業者に相談した。3月時点で消毒は「2~3週間後になる」と言われた。4月に入ると業者側も忙しくなり、「マンションの方は勘弁してください」と言われ、対応しようにも業者が見つからない状態だったという。

「行政に相談しても、マンションで感染者が出るのは想定外といった反応で、マンションに対しては“放置プレー”でした」

 東京都内のマンションに住む40代女性は、エレベーターに乗る際など日々、感染リスクを避けるために注意しているという。

「エレベーターのドアの開閉や階数ボタンを押すときは怖く感じます。ルームキーや郵便受けに入っていたチラシ広告などを使い、自分の指で直接ボタンに触れないようにしています」

 国内のマンションで今回、クラスターが発生したという話は聞かない。だが、マンションには住民以外に、配達業者や設備点検業者などさまざまな人が出入りする。共有部分にあるドアのレバーや階段の手すり、エレベーターに設置された押しボタンなどには接触感染のリスクが潜む。

 住宅ジャーナリストの榊淳司さんは警鐘を鳴らす。

「エレベーターでは押しボタンの接触感染リスクのほか、とくにタワーマンションになると、乗っている時間が長くなります。マンションにはいろいろな人が住んでいて、小さな子供はおしゃべりをして、はしゃぐことが少なくありません」

 高級物件になるほど、共有部分がホテルのように外から閉ざされ、内廊下のタイプが多くなる。玄関先が外廊下であれば換気しやすいが、内廊下はあまり期待できないというのだ。「内廊下は換気が悪い感じがします。どこかでファンが回っているだけで、十分な換気になっていないのではないでしょうか」(榊さん)

(本誌・浅井秀樹)

週刊朝日  2020年6月26日号より抜粋