「エンターテインメント界がこの先どうなっていくか、今は皆が模索している時期だと思います。様々な活動が再開する中で、娯楽や芸能は後回しになってしまうかもしれない。けれど、この世界の灯火を消してしまっていいのでしょうか。お芝居や映画、音楽、笑い、アートなどの美しいもの、総合芸術は世の中に必要なのだということを忘れてはならないと私は思うんです。自分自身が経験した阪神・淡路大震災の時もそうでした。人々が立ち上がろうとする時、感動や共感や笑いは、前に向かって進むための燃料になる。私自身もエンターテインメントの世界の一員として、心の潤いが必要な時、ほんの少しでもお役に立てたら、そう願っています」

 世界中の人々が、新型コロナのため、ダメージを受けた。再生するためには、体だけを整えればいいというものではない。健康には気を使ってきた紀香さんも、4月には体調を崩し、口元などの発疹に悩まされた。

「私自身の舞台や映像の仕事がない時は、夫の世界のことで動いていましたので、この4年間は休日がなかったように思います。体が『休みなさい』『今こそデトックスよ』と言っていたかもしれません」

 体と心はつながっている。20代の頃からセラピストの元へ“癒やし”を求めて通っていた紀香さんにとっては、それは十分承知していたはずのことだった。そうして、誰もが癒やしを得たいと思うタイミングで、紀香さんがカリスマセラピストを演じる映画「癒しのこころみ~自分を好きになる方法~」が公開される。

「私が演じたカレンは、ブラック企業に勤めて心が疲弊してしまった主人公を癒やし、彼女が一人前のセラピストになっていく姿を見守る役です。私はこれまでたくさんのセラピストの施術を受けてきたので友人も多くいます。セラピストが『どんな思いや心構えで仕事に臨んでいるか』を近くで深く感じているので、監督と『こういうことを伝えたいです』と、話し合いをしましたね」

 映画の中で、「痛みを知った人間は、人を癒やすことができる」と紀香さん演じるカレンは、主人公にアドバイスする。紀香さんは、俳優という仕事を通して、人の心の痛みだけでなく、感動や、絶望、怒り、安らぎなどにも寄り添ってきた。演じるたびに、学びがあった。世の中の変化に対応していくだけでなく、自分の中でも、いくつかの変化を経過しての今がある。だから彼女は笑顔でこう言うのだ。「こんな時代を経験して、昨日より、ほんの少しでも成長していられる自分でいたい」と。前向きなメッセージで、少しでも、世の中を明るく照らすために。(菊地陽子 構成/長沢明)

週刊朝日  2020年6月26日号より抜粋