ミッツ・マングローブ「冬の女王、20年越しの存在感」 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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ミッツ・マングローブ「冬の女王、20年越しの存在感」

連載「アイドルを性せ!」

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ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、広瀬香美さんを取り上げる。

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 緊急事態宣言が解除となった今週(※原稿の締め切りは5月29日)。とは言えまだ「外出する気分じゃないなぁ」などと思う傍ら、自分が「外出しなくて済むのなら、極力外出したくない人間」なのだと改めて実感しています。もちろん仕事も面倒ですが、仕事を伴わない外出は、たとえそれが斎藤工とのデートであれ、もっと面倒臭い。面倒臭がりにとって何が面倒臭いって、場所や環境を変えること。面倒臭がりが一度外出すると長くなるのはそのためです。フットワークの軽い人は、気軽に外出した上に、サクッと自分のペースで帰ったりもできますが、面倒臭がりにはそれができない。私も「飲み出すと長い」「いっしょに遊ぶと朝までコースになるから疲れる」と言われるぐらい、とにかく「立ち上がって移動する」のが嫌いです。お金も貰えないのに2泊3日で海外に行く人の気持ちなど一生理解できないでしょう。

 今後も何かとコロナにかこつけて「動かない」予感でいっぱいですが、今は家にいても経済は回せるため、出前やテイクアウトをしまくった結果、クレジットカードが限度額を超えてしまいました。一念発起してベランダに干した腰痛防止用のマットレスも10日以上放置したまま、何度も雨ざらしにしている状態です。

「ステイホーム」という名のもとに大手を振って引き籠もり続ける私が、今夢中になっているもの。それは広瀬香美さんの公式YouTubeチャンネルです。すでに日本中のゲイを中心に何百万人もの人が観ている超人気チャンネル。週に1回ぐらいのペースで広瀬さんのピアノ弾き語りによるカバー曲がアップされています。演奏技術や歌唱力が超一流なのは言わずもがなですが、それ以上に彼女のただならぬ独創性が全開状態で、まるで巨大ダムの放流の如く、長年世間が漠然と抱き続けてきた「広瀬香美」という存在に対する収めどころのない感情もろとも丸呑みにして押し流してくれているかのよう。広瀬さん、想像以上にアグレッシブでクレイジーでワンダフルです。

 昨秋頃からでしょうか。スマホの音楽アプリが、やたらと広瀬香美をお薦めしてくるようになりました。「冬の女王」として大ヒットを連発していた90年代当時は、シングルを何枚か買う程度でしたが、スマホに薦められるがまま聴く内に、素晴らしさに開眼。速攻でアルバムを全作購入し、四十路半ばにしてよもやの広瀬香美三昧の毎日を送っていたところへ、前述のYouTubeと出逢い……。このまま行くと私の2020年は、コロナと広瀬香美の2本立てになりそうです。

 そして、なぜ広瀬香美が「冬の女王」になったのかという長年の謎も解けました。ヒット曲のほとんどがスキー用品店のCM曲だった彼女ですが、もちろん冬以外の季節にも傑作をたくさんリリースしています。にもかかわらず、世間は頑なに冬限定でしか広瀬香美を積極的に消費しなかった。それはひとえに、あの有り余る才能と狂気に向き合う勇気を持てなかったからではないでしょうか。「ゲレンデ・ミュージック」という風物詩として捉える以外に、当時の日本人は「広瀬香美消費欲」の大義名分を見出せなかったのです。

 匿名の姑息な感情ばかりが氾濫する現代において、業と性の塊とも言える広瀬さんの歌声。彼女の曲を聴きながらシャワーを浴びていると、心なしか外出が楽しみになります。

週刊朝日  2020年6月12日号


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ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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