平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数
平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数
ダーレオーエン選手を支えた家族と記念撮影 (提供/平井伯昌)
ダーレオーエン選手を支えた家族と記念撮影 (提供/平井伯昌)

 指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第23回は「ダーレオーエンとの約束」について。

【写真】ダーレオーエン選手を支えた家族と記念撮影

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 リオ五輪開幕まで2カ月余の2016年5月下旬、五輪で2大会連続のメダルを狙う萩野公介と星奈津美とともにノルウェー南西部の都市ベルゲンに行き、12年に急逝したアレクサンドル・ダーレオーエンの名前を冠したプールで開かれた大会に出場しました。

 ダーレオーエンは08年北京五輪100メートル平泳ぎ銀メダリスト。58秒91の世界新をマークして2大会連続金メダルを取った北島康介の最大のライバルでした。北京五輪の翌年、「世界一の北島を育てたコーチが、どんな指導をするのか知りたい」と連絡があり、日本にやってきました。

 北島が04年アテネ五輪で2冠を取って以来、海外から選手が訪ねてきたときは、泳ぎの技術やトレーニング方法を惜しみなく伝えてきました。世界の一流選手を教えることで新たな視点が得られるからです。

 ノルウェー選手で初めて五輪の競泳メダリストになったダーレオーエンは建築と写真を学び、オフにはスキーなどアウトドアスポーツを楽しむ好奇心旺盛な好青年です。プールで北島と一緒に練習をして、私の自宅にも来てくれました。

 巣鴨の焼き肉屋で2人で食事をしたとき、「北京五輪で北島が勝つと思っていたか」と聞かれました。北京五輪のダーレオーエンは絶好調。準決勝は世界記録まで0秒03に迫る59秒16でトップ、北島は予選より記録を落として59秒55でした。私と北島は58秒台の世界記録を目標にしてきたこと、そのための練習や試合でのウォーミングアップをどう行ったかなど、つたない英語で説明しました。

 ダーレオーエンは大きな口を開けてアハハハハと笑い、「それなら負けるわけだ。納得した」。心を開く表情を見て、恵まれない子どもたちに水泳を教えるなど人徳があり、母国でも人気が高いわけがわかったような気がしました。

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平井伯昌(ひらい・のりまさ)/東京五輪競泳日本代表ヘッドコーチ。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる』(小社刊)など著書多数

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