※写真はイメージです (c)朝日新聞社
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 給与を“担保”に前払いとして事実上、現金を貸し付ける「給与ファクタリング」。この給与を医療機関に支払われる診療報酬に置き換えたのが、「医療ファクタリング」と呼ばれる新手の手口だ。コロナ禍で経営不振にあえぐ開業医の間で悪質な業者による被害が急増している。

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 東京都内で内科の医院を経営する40代の医師は開業して2年。まだ新しい診察室でこう話す。

「うちはファクタリングでお金を調達し、開業した。しかし、コロナウイルスの拡大でこれだけ患者さんが減っては、高利貸しから資金を借りるか、閉院するかしかない……」

 内科医が資金調達したファクタリングとは、どういうものか。通常、診療報酬は診察した2カ月後に国から入金される。

 例えば、1月に診察、治療した報酬は、3月に受け取ることができる。2カ月のタイムラグを埋めるため、ファクタリング業者が介在する。開業医は診療報酬を得る権利をファクタリング業者に譲渡する。代わりに手数料分を差し引いた現金を即座に受け取ることができる。この内科医が業者に支払った手数料は3%。ファクタリング会社の関係者が注意を促す。

「医療向けの多くのファクタリング業者は、手数料が0.5~3%程度ですが、中には10~20%も取る悪徳業者もいるから注意が必要です」

 前出の内科医は1日当たり30人の患者を診察すれば経営的にはトントンだという。緊急事態宣言前までは40~50人の外来患者がいたが、4月は半分以下に減った。内科医がこう打ち明ける。

「開業資金などが足りず、まとまったお金がほしくてファクタリングを利用しました。都内など大きな都市で開業している医師の多くが、クリニックを賃貸で借りています。スタッフへの給料、医療機器のリース代、家賃などを合わせると月に数百万円は必要です。患者さんが激減した4月の診療報酬が国から支払われるのが6月です。私の場合、すでにファクタリング業者から入金されていますが、スタッフへの給料を支払ったらなくなりました。家賃は貯金を取り崩しました。さらに高い手数料を払ってファクタリングを続けるか、それも6月までが限界かな」

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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