「母と行く銀座のデパートは夢の国でした。『天龍』ではバナナのように大きな餃子、『鳥ぎん』で釜めしを頬張って。我が家には『よそゆき』という言葉がありました。(銀ブラは)一大イベントでした」。父のハコスカ(日産スカイライン2000GT‐R)でできたばかりの首都高に鈴ケ森から乗ると、「有楽町の交通会館やホテルニューオータニ最上階の回転レストランがとても高く見えた」。父が口ずさんでいたのがザ・キングトーンズの『グッド・ナイト・ベイビー』。「いったい誰を想って歌っていたのか(笑)」。女性にもてた江戸っ子の父だった。背の高さは麻美さんも引き継いだ。

 映画『禁じられた遊び』を観て大泣きした小学生時代を経て、中学は港区の普連土学園へ。初めて買ったドーナツ盤がシルヴィ・ヴァルタンの『アイドルを探せ』。地元にあったインターナショナルスクール、ドイツ学園に通うボーイフレンドと横浜米軍基地に出入りするようになる。「真緑の芝生に巨大な冷蔵庫。カフェテリアの七色のゼリーはめっちゃ甘いけど、これがアメリカの味なんだって」。69年、ザ・ドアーズ、ストーンズ、ジミヘン、ヴァニラ・ファッジ。基地で知った時代の音楽で彼女は筋金入りのロック少女に変身した。そんな思い出に合わせて、番組は激しく切ないロック一色になった。

 そしてもう一つ、新しいエンタテインメント、日劇ウエスタンカーニバルを知る。GSの景色もまた鮮烈な色あいの言葉で表現してくれた。『雨音はショパンの調べ』で結実した無二の親友、ユーミンとの友情は次号に続く。

週刊朝日  2020年6月19日号

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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