小学校での読み聞かせで人気があるのは、青なのに赤のラベルを貼られたクレヨンが主人公の『レッド』。LGBT絵本だが、人の多様性について広く学ぶことができる絵本だ。子どもの未来社の担当編集者である堀切リエさんがこう話す。

「『レッド』は他のクレヨンたちが悪気なく見当違いのアドバイスを行うことで、主人公を苦しめてしまう描写があります。見かけと自分の本質が違うことで悩む場面は誰しもある。どう乗り越えるのか、を考えるヒントになると思います」

 子どもの気持ちに寄り添い、考えるヒントとなる哲学絵本が重宝される時代になっている。そう話すのは絵本や児童書をウェブで紹介する「絵本ナビ」編集長の磯崎園子さんだ。

「谷川俊太郎さんが1981年に出した『わたし』(福音館書店)など、昔から優れた哲学絵本は存在していました。しかし、わかりやすくユーモラスに、違う視点から物事を考える提案をしてくれる作家、ヨシタケシンスケさんの存在は大きい」

 ヨシタケさんのデビュー作『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)や、おじいちゃんのエンディングノートを見つけた孫が死と生を考える、16年に出された『このあとどうしちゃおう』(同)。きらいな人がいてもいいんじゃない!と、問いかける19年の『ころべばいいのに』(同)など、発想えほんと呼ばれる作品は、じいじ、ばあば世代が読んでも、「思い込んでいた常識が揺らぐ瞬間がある。私が子どものころに知っていたらもっと楽になったなぁと感じるような、優れた“考える絵本”がたくさん出ています」と磯崎さん。

 祖父母世代にこそぜひ、孫と一緒に読んでほしい、と強くすすめるのは、社会性をテーマにした絵本だ。

 昨年話題になったのは、戦争体験者の谷川俊太郎さんが、戦争を知らない世代の人気イラストレーターのNoritakeさんと手がけた『へいわとせんそう』(ブロンズ新社)だ。左右のページに、人や場所の「へいわ」な状況と「せんそう」の状況が並べられており、ひと目で違いがわかるつくりになっている。

「社会性のある絵本は、体験と経験豊富な祖父母世代だからこそ、絵本に加えて個人的なメッセージを孫に伝えることができます」(磯崎さん)

 そして、令和の時代ならではの社会問題を題材にしたのがこの絵本だ。

 今年3月に出たばかりの『ランカ にほんにやってきたおんなのこ』(偕成社)は、外国から全然知らない国の、知らない学校に来た女の子が、知らない言葉で話す、知らない子ばかりの教室にすわっている時間を描いている。(本誌・永井貴子)

週刊朝日  2020年6月19日号