このカスハラは「少なからず元からあった」(池内さん)という。問題が目立ち始めた背景には、2009年の消費者庁の発足など消費者保護が大きく進んだことがある。企業のコンプライアンス(法令や社会規範の順守)も重視されるようになった。こうした中で、過度に権利意識を持ったり企業に不信感を持ったりする人が出てきている。

 もちろん、全ての人がカスハラをするわけではない。『督促OL修行日記』(文春文庫)の著者で、コールセンターで長く顧客の苦情に対応してきた榎本まみさんによると、同じことをされても「このぐらいはしょうがない」と許容できる人と、許容できずに怒る人がいる。後者に共通しているのは「(金銭や生活に)余裕がない」ことに加え、「求めるものが高い」ことだという。特に中高年に多い。

「会社などで『お客様は神様だ』という認識が刷り込まれていて、店側に求めるものが高いからです。自分たちはこれだけ我慢してきたし、このぐらいのことは当たり前だろうという意識があるから(従業員から顧客へと立場が変わった時に)怒るのです。中高年は『お客様は神様です』教育の被害者といえるかもしれませんね」

 一方、若い人は昔と比べて全然怒らないという。

「直接怒っても意味がないと気づいているし、それが格好悪いとわかっているからでしょう」

『自衛隊メンタル教官が教える 50代から心を整える技術』(朝日新書)の著者で、心理カウンセラーの下園壮太さんは、中高年が怒りやすいことについてこう指摘する。

「50代以降はだんだん我慢も抑えられなくなってきます。心身のエネルギーがだんだん弱まり、それまで我慢の力で抑えられてきたことができなくなるからです」

 怒るとエネルギーを使って消耗し、その後に罪悪感がやってくる。一方、怒りを我慢することも問題だという。それだけで心身ともにすり減ってしまうからだ。

 怒るも我慢も疲弊につながるとなれば、どうすればいいのか。

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