私をだました女性を、私は後継者にするつもりだったの。美容師免許を取らせようとしたり、マニュアルを口伝で教えたりして、フランスにも連れていった。

 でも、彼女は私のところにいて何ひとつ勉強していなかった。陰では「なんで私が継がなきゃいけないの」なんて言ってたらしいわ。

 スタッフも次々に辞めていくし、「おかしいな」と感じてはいたの。どうやら彼女が私に近い人たちを追い出すようなことをしていたらしい。私はすっかり信用していたから、ぜんぜん気付かなかった。ほんとにバカよね。

 2011年に東日本大震災があって、その影響で当時銀座にあったサロンは赤字が続いていました。でも、彼女が「先生の古希のお祝いは銀座にいる間にしてあげたい」なんてかわいいことを言うから、じゃあもう少しがんばろうと思ったの。

 古希のお祝いは13年7月にグランドハイアット東京で盛大にやってもらったんだけど、そのときも首をかしげることが多くて。知らないうちに5人ぐらい発起人が増えてた。彼女が美容ライターとして世話になろうとしていた人たちなのよね。なんだか後継者のお披露目みたいになっちゃった。おめでたい席だから、何も言わずにニコニコしてたけど。

 彼女は私に来た仕事を勝手に断って、自分が代わりに雑誌に連載を持ったり、テレビの収録に行ったりなんてこともありました。「佐伯はそういうことはしません」「もう歳なので無理です」なんて言って。

 最終的には彼女が辞めて、それからいろんな人が「実はこうだった」って教えてくれました。もっと早く教えてくれればいいのにって言ったんだけど、「だって佐伯さん、すっかり彼女を信じていたから、聞かなかったでしょ」って言われて。

 私は、世の中にそんな人がいるなんてことが、まったくイメージできなかった。怒りというより、悲しくて、そんな人を信じていた自分も情けなかった。経営者としては、まるで失格ってことよね。

 こうなってしまったのは、相手を信用しすぎたからかしら。勝手に娘のように思って、会社の通帳や印鑑まで預けるようなことをしちゃダメね。親しくても、ある程度のところで線を引く必要もあるんだなってことは、とても勉強になったわ。

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