「野宿生活が長い人は身分証明書自体をなくしてしまったケースもある。そうなると住民登録どころか、戸籍をたどって住民票の履歴を追いかけようとしても、請求することさえ簡単ではない。手続きをしているうちに給付金の申請期限が終わってしまいかねません」

 実際、自治体では住民登録がない人たちの申請受付ができていない。

「市に住民登録があることが必要。ない人の申請手続きをどうするかは現在、何も決まっていない」(横浜市)

「何も決まっていない。現金による給付も保留」(大阪市)

 都内でホームレスが最も多い新宿区の担当者は、「保護担当課などで相談を受けて、住民登録先を見つけるしかないのが現状」と話す。だが、預貯金や収入がない人たちの住民登録先を見つけるのは難しく、生活保護を含めた生活再建とセットにしないと進まないケースがほとんどだ。

 一方、総務省はネットカフェで寝泊まりする人でも長期契約があり、店舗側が同意すれば住所地として登録できるとしている。だが、これも実態に即しているとは言い難い。

「ウチは住民登録の場所として認めていない」(大手ネットカフェ)というところが多いうえ、多くのネットカフェでは会員制を採用し、住所がないと会員になれないようにしている。

 一時期、利用者が住民登録できるサービスを提供していた埼玉県蕨市にあるネットカフェでは、市の指導があってすでにやめたと話す。蕨市に理由を聞くと、「リーマンショックの際、就職するための住所が必要な人向けに店が住民登録を認めるサービスをしていた。だが、その役割も終えたと判断してやめるよう指導した」(市民課)

 市は、再開を認める予定はないと言う。

 住民登録ができない人向けの救済措置はないのか。自治体から聞こえてくるのは、二重給付を防ぐために国が新たな仕組みを全国一律で作れば、あとは市区町村単位で対応できるとの声だ。

「戸籍と住民票を組み合わせて住民登録地を確認する仕組みがあれば、登録地がある人は給付の対象となる場所がわかり、どこにも登録がない人は『対象になってない人』だと確認できる。そのうえで、登録がない人は新たに申請を受け付けるようにすれば管理できるのではないか」(渋谷区)

 また、特別定額給付金の申請期限が、郵送方式の申請受付開始日から3カ月以内と短いことにも心配の声が上がる。台東区の担当者は「生活困窮者を保護して住所登録地を定めるまでには時間がかかるため、期限内に申請が間に合わないことも考えられる。来年3月末まで申請期限を延長してほしい」と話す。

 だが、こうした声に総務省は消極的だ。

「住民基本台帳への記録が給付を受ける前提。住民登録が大きな支障になっていれば市区町村が積極的に支援をしていただき、支援団体には国からの補助も用意している。しかし、新たなスキームを検討する予定はない」(地域政策課特別定額給付金担当室)

 このままでは、国民一律の給付金なのに受け取れない人が出てしまう。前出の高沢氏は、実態を見て融通を聞かせるべきだと話す。

「実際に住んでいる確認ができるのであれば、行政はもっと柔軟な対応をしてほしい。そうしないと、給付金を本当に必要とする生活困窮者に行き渡らないことになります」(ジャーナリスト・桐島瞬)

※週刊朝日オンライン限定記事