安倍首相は5月中の薬事承認を目指していたが、厚労省が慎重姿勢を崩さず、承認は見送りになった。現在、アビガンの新型コロナへの使用は保険適用外で、改めて治験で安全性と有効性が確認されなければならない。

 藤田医科大で薬を使った経過観察も行われたが、有効性の評価は示されなかった。一方で、副作用として催奇性がわかっており、妊婦に投与すると胎児に奇形が生じる恐れがある。上医師が説明する。

「早期の承認を目指すなら、感染者が増加傾向にあった2月か3月の時点で治験を行うべきだった。収束に向かうと患者が減っていくので大規模な治験ができません。もちろん、承認を急ぎすぎると間違いの元になりますから、徹底した情報開示で学術界やメディアによる検証が必要です」

Q7:レムデシビルが早期に承認された理由は?

 一方、日本で承認されていなかった、米国のエボラ出血熱の治療薬候補のレムデシビルは、厚労省が医薬品医療機器法に基づいて「特例承認」した。重症者に静脈注射で投与する薬品だ。水野医師がこう話す。

「米国で新型コロナ患者への緊急使用が認められていたこともあるのでしょう。レムデシビルは回復が難しい患者さんに、藁にもすがる思いで救命のために投与する薬。腎機能障害などを起こす可能性があるなど副作用もありますが、人道的見地から認められたのだと思います」

Q8:実際の市中感染の割合は?

 新型コロナの感染歴を調べる抗体検査は、感染後、体内にできるタンパク質(抗体)の有無を調べる。その結果から、厚労省は東京都の陽性率は0.6%と発表した。推計される感染者数は約8万4千人だが、検査対象が献血だったため疑問符が付いた。日本赤十字社が感染の疑いのある人の献血を断っているからだ。上医師が語る。

「私が勤務するナビタスクリニックで受診者を検査したところ陽性率が5.9%でした。一般クリニックで年齢層が若く、検査を希望した人たちだから実態よりやや高い結果になっていると考えられます。抗体ができていない人や偽陽性も考えれば、実際の陽性率は数%程度という予測が、一番しっくりきます」

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