今後も新しいツールが出てくるだろう。高年齢ワーカーが戸惑う一因だが、ITジャーナリストの西田宗千佳氏によると、「歴史」を振り返って意味づけを整理することが大切という。

「おおむね2000年以降に仕事を始めた世代とそれ以前の人たちで、ツールの使い方に大きな違いがあるんです。デジタル化された文書を印刷するかどうかです。PCがオフィスに入り始めるのは1980年代の後半。そのころはすべて紙に印刷して使っていました。ところが、インターネットが広まるにつれ印刷しない文化が出てきた。すべてをデジタルのままで流通させようというもので、今はそれが主流です」

 なるほど、たしかに高年齢ワーカーは、印字して重要だと思う部分に赤線を引くなどしないと、読んだ気にならないタイプが多い。

 もちろん、企業のデジタル化はコミュニケーションの側面だけではない。

「日本のデジタル人材の育成はドイツに10年、米国に20年遅れています」

 こう話すのは、デジタルビジネスに詳しい経済産業研究所リサーチアソシエイトの岩本晃一氏だ。

「私たちの周りをみれば一目瞭然。米国のITの巨人たち、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)の商品やサービスが広く普及していますが、これに対して日本企業のそれは少ない」

 一気に立て直せるかどうかはともかく、この状況を変えていくために「デジタル化」を強力に進める流れが産業界にあるという。変化の筆頭は、やはり働き方の中にデジタル機器・サービスが入ってくることだ。

「日本の労働生産性が低い理由の一つは、人力に頼ってデジタル化が進んでいないからです。機械は人間の頭脳の繰り返し業務ができて、速くて正確。経理や人事など間接部門はほとんどがルーティン業務ですから、それらの仕事が急速に機械に置き換わっていくでしょう」

 先の西田氏は、これからはブルーワーカーの現場にデジタル技術が入ってくるとみる。

「まだ手付かずの分野で、多くのIT企業が進出を狙っています。スマホのカメラや頭にウェアラブルなコンピューターをつけたりすることで、現場の作業をスピーディーに効率よくしようとするものです。紙を見なくても倉庫の状況をチェックできたり、映像を見ただけで工場ラインのトラブルが把握できたりするかもしれません」

>>【後編】“紙に印刷”をやめてみる? 高年齢ワーカー「コロナ後デジタル時代」の働き方 へ続く

(本誌・相庭学)

週刊朝日  2020年6月12日号より抜粋