──9月入学の問題点は何でしょうか?

 家庭にも学校にも国にとっても、経済的なデメリットしかない。9月入学に移行した場合、7兆円近い財政負担を伴います。在校生を持つ家庭にとっては、5カ月分の授業料や塾代が追加負担になる。学校としても、新入生の授業料は入らず、新体制への移行費用も膨らみ経営がひっ迫するところも出る。さらに新社会人としての就職時期が延びることで大卒なら105万円、高卒なら84万円と本来得るはずだった収入は減収になる。そこまで負担を強いても、9月入学が「国際化」に与える効果は限定的です。インドは日本と同じ4月入学ですし、韓国は3月入学ですが、米国にたくさん留学している。時期は関係ありません。むしろいまやるべきなのは、長期化した休校による、子どもたちの学習の遅れを取り戻す、手厚い取り組みです。学校と子どもへの支援に全力を注ぐべきです。

──全国で学校が徐々に再開されます。するとどうなりますか?

 学校の先生は、感染防止のため、教室やトイレなどの消毒、検温や誘導に忙殺されるんです。これでは、学習が遅れた子どもたちへの指導すらままなりません。十分に勉強をフォローしてあげられない家庭もあるなか、学力格差は広がる一方です。全国の各小中学校に3人、各高校2人の教員を増員するだけで10万人の増員が必要なのです。さらに、新型コロナウイルスの第2波の感染拡大に備え、きちんとオンライン授業が行えるよう情報通信技術を持つスタッフや、家庭学習への指導員、スクールカウンセラーも必要でしょう。

(本誌・永井貴子、今西憲之)

週刊朝日  2020年6月12日号

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今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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