「DNAワクチンと同様の手法を使った慢性動脈閉塞症の遺伝子治療薬を昨年9月に発売しており、ゼロベースの開発ではありません。スパイクを挿入するためのプラスミドは大腸菌から大量に作れるため、ワクチン開発にかかる時間は3週間程度。製造も6週間ほどあればできます。全てが順調にいけば年内の実用化も可能。製造体制もすでに整えました」(アンジェス広報)

 大阪府もワクチン開発で大阪市や大阪大学などと連携協定を結び、支援する。

 一方、早すぎるワクチンの開発には不安もある。

「リスクの高い高齢者に十分な免疫をもたらし、免疫応答のよい若者にも過剰免疫を引き起こすことなく安全に使えるワクチンを開発するのは至難の業。安全性や効果を通常の基準で確認しようとすれば、年単位の時間が必要です」(村中氏)

 岡田氏も同様の懸念を持つ。

「一番心配なのは、ワクチンで体内に抗体ができた後に再感染すると重症化する『抗体依存性感染増強』です。過去に鼻かぜのRSウイルスやデング熱のワクチンで、このような事例が報告されたため、実用化されませんでした。心配なのは、同じコロナウイルスが引き起こす重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)でも、動物実験で同様の事例が起きていること。開発を急ぎワクチンが実用化された後でわかったら、多くの人がひどい症状になりかねません」

 また、開発中のワクチンのベースは武漢型の新型コロナと言われる。このため、欧州で猛威を振るう株違いのウイルスにどこまで効くのかは未知数。さらに今後ワクチンが完成し、無事、体内に抗体ができたとしても、免疫がどのくらいの期間持つのかも不明だ。

 ワクチンや治療薬がないまま都市封鎖を解除した海外諸国では、早くも感染再拡大の傾向が出ている。今年冬に流行の第2波が来るとの予測もあるなかで、私たちはどうすれば良いのか。

 岡田氏は、人類が撲滅したウイルスは天然痘しかないことを挙げ、共存が必要だと説く。

「新型コロナウイルス感染症は、幸いなことに8割は軽症。数年経てば多くの人たちが免疫を持ち、インフルエンザのようなごく普通のウイルスになる。それまでの間は感染症対策をしっかりと行いつつ、重症者や死亡者をいかに減らす努力をするかが大切です」

(ジャーナリスト・桐島瞬)

週刊朝日  2020年6月5日号