新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐカギを握るワクチン開発が世界中で進んでいる。候補は100種類を超え、日本も大学や製薬会社などが連携してピッチを速める。一方、急ぎすぎることで副作用などのリスクを心配する声も上がっている。ジャーナリスト・桐島瞬氏が、ワクチン開発の最前線をリポートする。
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「米国では治験が始まり、人への投与が始まっている。日本でも早ければ7月には開始できる見込みだ。早期に有効なワクチンの投与を始めたい」
安倍晋三首相は5月の連休明けの国会で、新型コロナのワクチンについて期待を込めてこう述べた。
世界保健機関(WHO)によると、世界で開発中のワクチンは124種類(5月22日現在)。このうち、動物実験が終わり、人への投与を行う「治験」の段階を迎えたのは10種類ある。
開発が先行するのは新型コロナの発生源となった武漢のある中国と、大規模感染が起きた米国や英国。英製薬大手のアストラゼネカは9月に4億本のワクチン供給を始めると発表し、米バイオ企業のモデルナなどは感染を防ぐ抗体が確認できたことを明らかにした。
京都大学大学院医学研究科非常勤講師で医師の村中璃子氏は、「これだけ一斉にワクチン開発が行われるのは異例」と話す。
「インフルエンザなど流行に売り上げが左右されるワクチンは、元来、製薬会社にとってあまり魅力のある商品ではありません。しかし、今回に限って言えば巨大なニーズがあるのに競合製品が存在していないというビジネスチャンス。『人類を救おう』という使命感もあり、急ピッチで動いています」
米国は追加予算でワクチン開発や治療法などに30億ドル(約3217億円)以上を投入。トランプ米大統領は、ワクチンの正式な承認前でも製造を認める「ワープ・スピード計画」で、年内の実用化を目指す。
日本も4月末に成立した補正予算で新規のワクチン開発に「補正予算としてかなりの規模」(厚生労働省)となる130億円を計上し、スピードアップを図る。
WHOは当初、ワクチンができるのは「少なくても1年~1年半先」と見通した。これでも並外れて早い。