しかし、このやり方では、また失敗するだろう。

 この制度の実施には、国民の政府への信頼が不可欠だ。しかし、「森友、加計、桜」など安倍総理にまつわるスキャンダルや不祥事もみ消しのための検察人事介入などで、安倍政権に対する国民の信頼は地に堕ちた。そんな危ない政権に自分たちの大事な情報を預けろと言っても無理な話だ。

 マイナンバーには国民の社会権実現のほかにもう一つ大事な機能を持たせることができる。公正な負担の実現と不正の摘発だ。資産隠しを明るみに出し、政治資金などの不正を暴露するのに利用すれば、国民の信頼と理解は高まるだろう。

 昨年の本コラム(8月2日号)でも提案したが、まず、政治家の不動産、銀行・証券等の金融資産口座など全ての資産をマイナンバーと紐づけるべきだ。資産の登録漏れに刑事罰を科し、政治資金は全て単一口座で管理、収支はキャッシュレス限定とし、四半期ごとに使途を公開する。1年間はハッキングで情報を得た者には賞金を出し(もちろん情報の秘匿を義務付ける)、システムの安全性を国民の前で検証する。

 政治資金の透明性が高まり、不正摘発の実績が出れば、社会の理解が進む。その上で、給付のための口座紐づけを求めれば、国民は納得して応じるだろう。

 それでも、安倍総理の下では、国民は「NO」と言うかもしれないが。

週刊朝日  2020年6月5日号

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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