八「なんの幼虫ですかね? ちょうちょかな?」

隠「子どもらと『かわいーね』『アゲハかな』とか言いながら愛でてたら、あいつらモリモリ葉っぱを食べて、うんこもブリブリして、そのうんこも緑色でまるで汚い気がしないの。あっという間に2センチくらいに育っちゃった」

八「成長早いねぇ、虫は」

隠「で、一体何の幼虫かとカミさんがスマホで調べてみたらハチだったんだ。どうやら害虫。そしたら家族の態度が一変してさ、『気持ち悪い』『早く始末しろ』とか。あんなに可愛がってたのに……オレ悔しくてさ。『とりあえず羽化するまで、大人になるまで生かしてやってくれ』とオレが涙ながらに訴えてる横で、アイツら山のようにうんこしてんだよ……」

八「仕方ないよね、虫だもの……」

隠「大人になったらそのハチは家族の目を盗んで逃してやろうと思ってる。その頃には朝飯に美味い糠漬け食えるかな……緊急事態宣言も解除されてるかねぇ」

八「ですかねぇ?」

隠「ま、気長に待つしかないだろよ」

週刊朝日  2020年5月29日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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