最後に付け加えるなら、すべての前提として、守るべき最低限のルールをつくり守ること。それが組織の中に誤解、不平不満、ねたみ、うらみを生まないコツなのだそうです。

 後藤さんから識学について話を聞き、18年、西田さんは部員との距離を意識するようになりました。それまでは、部員の兄貴のようにふるまっていましたが、厳しく接するようにしました。

 そして、スタンダード制と呼ぶ仕組みを導入しました。

 たとえば、片道50メートルを3往復、300メートルのシャトルラン。このタイムで、ポジションごとのスタンダードを設定したのです。

 1チーム15人でするラグビーでは、ポジションごとの役割が明確です。

 速さを求められるのは、バックスの選手です。パスで託されたボールを持って、スピードで相手を振り切らなくてはなりません。だから、スタンダードはスピード重視の48秒。

 スクラムなどで相手とぶつかりあうフォワード。体重が一番重い部員になると120キロぐらいあります。スタンダードは60秒に設定しました。その代わり、ウェートトレーニングではバックスより重いものをスタンダードとしています。

 当初、スタンダードをクリアしたのは2人しかいませんでした。数カ月後には8割がクリア。明確な目標を見据え、部員たちが努力したのです。

 さらに、ラグビーに必要な技能を20に分け、それぞれ5点満点で評価しました。ポジションによって必要とされる技能は違います。5点満点を要求する技能と、そうではない技能をしっかり分けました。

 選手それぞれのできないことを明確にしたのです。点数が上がれば、成長です。試合に使ってもらえないと不平を言う部員がいたら、西田さんは言えます。

「悔しかったら数字を上げなさい」

 最低限のルールも決めました。遅刻しない、清掃をきちんと、食事内容や体脂肪率の報告は速やかに、といった決まりです。ルールを守るよう厳しく指導します。

 上司と部下のなれあい排除、目標に向かって力を積み上げる経過変化、できるできないの明確化、ルール順守。西田さんは、識学をラグビーで実践していきました。(朝日新聞編集委員・中島隆)

週刊朝日  2020年5月22日号より抜粋