MCの小倉さん自身、高齢と病気をなさったこともあってご自宅から。バックに本棚が映っている。

 私の場合は殺風景な壁がバックになっている。モニターには一人一人区切られて人物が並び、発言する場合も話を向けられれば喋りやすいが、話題に途中で入ることができない。要は会話が成り立たないのだ。その上に、画像が乱れたり、音声がずれたり、遠い外国と中継をつないでいる感じなのだ。

 つくづく人間は、お互いの顔を見て話すことでコミュニケーションを保っていると思う。その意味でコロナはさまざまなことを教えてくれた。

 話の往来が自由にできないことほど、不便なことはない。

 日頃なにげなく人と人とが話せることがどんなに大切か。これからは、コロナが終息したら、人との会話をもっと心を込めてしたいと思う。

 隔靴掻痒という言葉がある。靴の上からかゆいところをかくようにもどかしい感じが残るリモートであった。

週刊朝日  2020年5月22日号

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下重暁子

下重暁子

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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