それは日本産業界にも大きな影響を与える。経団連企業の幹部は、日本の学生の英語力が低く国際競争上大きな不利益を被っていると、文科省を批判してきた。

 しかし、もし、日本の優秀な学生が英語を話せるようになれば、誰も経団連企業などに就職しない。長時間労働、休みも取れず、安月給、パワハラ・セクハラ当たり前、組織への忠誠が強制される会社に入るのは、海外への道を英語力という壁で閉ざされていたからだ。

 今や、ネットでネイティブスピーカーから英語を学ぶ若者は急増している。文科省教育の外で英語力を高めた若者は日本を飛び出すことになるだろう。

 ただし、高額な留学費を一般家庭で工面するのは難しい。文科省の出鱈目な英語教育に加え、日本企業の賃金抑制と政府の円安政策が若者を日本につなぎとめるくびきとなる皮肉な状況。

 それでも、日本の若者には海外で活躍してほしい。そして、億万長者になって、将来日本が破たんして中国などに買いたたかれた時に、日本を買い戻す助っ人になってくれたらなどと思う。

 その時、日本が救うに値する国なのかどうかは、はなはだ心もとないが。

週刊朝日  2020年5月22日号

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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