アパレル産業が盛んな東海地方。アパレル業者の倉庫から20分ほど走ると小さな工場が見えてきた。窓越しに、マスクを作っているのが見える。縫製工場の経営者もこう証言した。

「この辺りは、アベノマスクの製造を受けている会社、たくさんありますよ。5月8日までにA社へ出荷してくれと頼まれ、夜遅くまで仕事しています。当初、納期は5月20日だったのですが、アベノマスクだから検品を厳格にしなければいけないと早く送るように指示されました」

 本誌はA社が下請け業者に送信した複数の指示メールを入手した。例えば、5月1日にA社担当者が発信したメールに次のように記されていた。

<本日時点での情報で結構ですので、貴社生産計画に基づく5/8(金)以降の出荷数量をお知らせ頂けますでしょうか。まずは5/8(金)出荷(=5/10着荷)で何枚ご準備頂けるか、次いで、残りの分をどれだけ早くご出荷頂けるかお知らせください>

 ゴールデンウイークの連休前後から全国のドラッグストア、街の商店街の店頭には品不足だったマスクが箱で大量に売られるようになった。その多くは中国製品で飽和状態になりつつある。国会でも安倍首相が野党からアベノマスクの不良品について追及を受けていた。

 その焦りからかA社は下請け業者に納品を急ぐよう指示を矢継ぎ早に出していた。だが、中には驚くべき指示があった。

<裁断の段階で異原糸や破れ・ほつれが見つかった場合はどうすれば良いか、その部分はカットすれば良いかというお問い合わせを数社様より頂いております。異原糸などが見つかった生地は裁断の段階では不良品とせず、折りたたんでマスクの状態にしてください。マスクの状態で「外から飛込みなどが全く見えないもの」はA品とさせて頂きます>(4月26日送信)

 メールで指示を受けた縫製工場の経営者がこう解説する。

「A社から新たに送られた動画で白い大きな布を広げて作るよう指示されているのですが、この時点で布に問題があるか、不良品かどうか、普通は気付くはず。また異原糸というのは、業界用語で布に小さな糸や汚れなどが混入していることを指します。衛生面が大事なマスク。外から見えなければA品という扱いで大丈夫なのか。杜撰な指示を疑問に思いました」

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