世界銀行のデビッド・マルパス総裁(C)朝日新聞社
世界銀行のデビッド・マルパス総裁(C)朝日新聞社

 世界銀行は4月27日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて「パンデミック債」で集めた資金の一部を途上国64カ国の支援に充てると発表した。しかし、支援金を出すための条件が厳しく、支援に踏み出すタイミングが遅れたことなどから、使い勝手の悪さが指摘されている。

 パンデミック債の正式な名称は「パンデミック緊急ファシリティー」。投資家から集めた資金を途上国の感染症対策に充てる仕組みで、2017年に発行された。感染症の発生後、「2カ国超に感染拡大」「発生国以外の死者2500人以上」「感染が始まってから12週間」など一定の条件を満たすと、元本の一部が医薬品や医療従事者への手当てなど途上国支援に回される。今回は仕組みができてから初めて、最貧国を中心に1カ国あたり1億~15億円、計約200億円を提供するという。

 財政規模が小さな途上国では感染症や災害に備える余裕がないところが多い。こうした国に必要な資金を金融市場から集める「史上初の画期的な試み」(世銀)で、発行時は当初見込みを2倍超上回る応募が寄せられた。

 だが、市場関係者などからは「スピード感がない」といった批判が出ている。野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英さんは、

「もともとエボラ出血熱の感染拡大を受けて作られたもので、今回の事態とは想定していた前提が大きく異なります」

 と、「失敗」の原因を分析する。

「新型コロナは欧米などの先進国から感染が広がった点でまず、想定とはずれが生じました。途上国に回される資金の規模も対策に充てられるには小さい。何より、流行発生から資金提供までの時間がかかりすぎです」

 資金の出し手である投資家も、損失が生じる。パンデミック債は年10%余りの高利回りであることが魅力だった。投資家に払う利息の部分は日本やドイツ政府が出資している。

「出資者にとっては、めったに起こらないことが起きてしまったことで、お金が戻ってこない事態となりました。もう『次』はないでしょう」(木内さん)

 投資した元本が毀損(きそん)する恐れがある仕組みそのものが、世銀が出す債券の中でも異例だった。途上国への支援のあり方だけは、世銀や国際通貨基金など国際機関の融資や出資に頼る「通常モード」に一足先に戻るかもしれない。(本誌・池田正史)

※週刊朝日オンライン限定記事

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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