「天音」の上天丼2700円。ご飯が見えないほど天麩羅がびっしりのる  (撮影/写真部・加藤夏子)
「天音」の上天丼2700円。ご飯が見えないほど天麩羅がびっしりのる  (撮影/写真部・加藤夏子)
座敷で食べるときは、天丼は+200円、天麩羅御飯は+150円。夜のコースは8000円から/先物取引や証券の街・蛎殼町で1930年に創業。かつては、出前の注文が引きも切らなかった (撮影/写真部・加藤夏子)
座敷で食べるときは、天丼は+200円、天麩羅御飯は+150円。夜のコースは8000円から/先物取引や証券の街・蛎殼町で1930年に創業。かつては、出前の注文が引きも切らなかった (撮影/写真部・加藤夏子)

 都内の繁華街から人の姿が消えた。読者世代が昭和の時代から愛し続けた東京の名店を、令和の今こそ応援したい。生一本の胡麻油で天麩羅を揚げる「天音(てんおと)」を紹介。

【写真】店内の様子はこちら

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 丼を見て驚く。ご飯が見えない。迫力に気圧されながら天麩羅を口に運ぶ。やや甘く感じるが、甘みが舌に残らない。あっという間に完食し、胸やけや胃もたれは全くない。

「うちは生一本。太白胡麻油しか使いません。胡麻を焙煎しないで搾った油で、自然と甘みが出ます。おつゆに入れる砂糖の量はよその半分もないから、もたれないんですよ」(店主の北角満さん)

 7~8年前に胡麻油の価格が高騰。ほとんどの店がサラダ油などとブレンドするようになった。北角さんも試したが、「子どもが『うちの味と違う』と。うちの味が好きで通っているお客さんのことを思ったら、変えることはできない」と判断した。

 北角さんは3代目店主。店を継ぐのが嫌で、母と結託し父には内緒で大学に通い、卒業後はメーカーに勤務した。初代と2代目に連れ戻され、やむをえず働きだしたという。そういう経緯のある店主が、初代からの味を必死に守り続けている。

(取材・文/本誌・菊地武顕)

「天音」中央区日本橋蛎殻町1‐13‐2/営業時間:平日11:30~13:30L.O.17:30~20:00L.O.土11:30~13:30L.O.土の夜は宴会のみで前々日までに要予約/定休日:日・祝

※この時期の営業日・時間については、お店にお問い合わせください

週刊朝日  2020年5月8日‐15日合併号