特に医療用マスクやガウンなどのPPE不足は深刻で、SNS上でも「#GetUsPPE(私たちにPPEを下さい)」というハッシュタグで企業や一般市民から寄付を求める動きも全米で広がっている。

 クリスタルさんは日本の医療現場の最前線に立つ医師・看護師に向けてこうメッセージをした。

「くれぐれも自分の身を守る事を第一に考えて下さい。それが患者さん、自分の家族、ひいてはコミュニティーを守る事につながるのですから」

 厚生労働省によると4月26日現在、米国の感染者は約93万人、死者は約5万3千人でうちNY州の感染者は28万人、死者は1万6千人を超える。

 感染者が爆発的に増え、医療現場は一時、パニックに落ちった。NY市・エルムハースト病院に勤めるアシュリー・ブレイ医師が、感染患者が激増した3月下旬に米紙ニューヨーク・タイムズに投稿したビデオでは、現場の壮絶な実情が詳細に報告されている。

 病院前には連日、早朝から感染症状を訴える患者が長蛇の列を作った。1日の診察数は平時の倍、400人以上に及び、緊急病棟のベッドはすぐに満床になった。

 重体の感染患者に必要な人工呼吸器も足らず、24時間の間に13人の死者が出た日もある。病院の外には収容し切れない死亡者を一時的に保管するための大型冷蔵トラックが停まり、診療し切れないために深刻な症状のない患者は追い返された。

 最大の問題は医療器具の不足で、クリスタルさんが証言したようにマスクは何日も使い回しを余儀なくされ、結果として院内感染が進行した。「先進国である米国であるのに」とブレイ医師はこの状況に驚きを隠せない。

 また別の病院では、医療用ガウンの代わりに看護師たちは黒いゴミ袋を着用し、廊下にまであふれた患者の治療にあたった。地元メディアによるとその看護師の1人が後日、感染し死亡したと報じられた。

 こうした事態は全米各所で起きている。「病院はほぼ満室で、人呼吸器もほとんど底をついてきた。救急車のサイレンも鳴り止まない」「病院には(医療用の)ガウンもないし、マスクも無くなってしまった。古いのを使いまわしている」「今日私は泣き崩れてしまった。疲労と敗北感で泣く事しか出来なかった」。フェイスブックなどのSNSにはそうした医療従事者の投稿が溢れた。

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