そんなアレックスさんを勇気づけたのは緊急病棟に勤めていた親友の言葉だ。友人はコロナに院内感染したが、「回復した際には、また診療現場に戻る」と語った。アレックスさんはその友人の言葉を聞き、最前線で闘う決意を固めたという。

 アレックスさんの友人のように院内感染する医療関係者が、全米では増えている。CDC(米疾病対策センター)によると、これまでに全米における医療従事者の9千人以上が感染し、30人近くが死亡したという報告があり、実際の人数はさらに多いと予想される。コロナ感染した医師や看護師などは最低でも14日間の自宅隔離が命じられるので、病院は人手不足になるという悪循環に陥っているのが現状である。

 クリスタル・トレスさん(31)は、NY市内にあるスタテン島大学病院に看護師として勤めて4年になる。NYにおいてコロナ感染者が急増した3月上旬頃、彼女の病棟も臨時の受け入れ先に変わり、重症者を含む感染患者の対応に追われた。一日12時間半、週3日のシフトで働いた。

 クリスタルさんや他の医療スタッフは、当初からPPE(医療用個人防護具)不足に悩まされていたという。通常ならば毎回患者毎に交換する医療用ガウンも病院側から使い回すように指示され、マスクは1週間、使い続けるよう指導され、髪の毛を覆うヘッド・カバーも数が足りないためシャワーキャップで代用する同僚もいた。

 そのような仕事環境の中で1ヶ月ほど経った4月上旬にクリスタルさんは体調の異変を感じ、PCR検査を受けたところコロナウイルスに感染していることがわかった。病院側からは14日間の自宅待機を命じられたが、一週間ほど経った際には「まるで象に踏み潰されるような胸の痛みに苦しめられた」という。現在も自宅待機中であるが、一緒に暮らす60代の両親と6歳の娘にも感染しないか非常に心配であると語った。

 拡大する院内感染を背景に、医師や看護師たちの不満の声は高まっている。NY市内にあるいくつかの病院の前でも「私たちの命も守って」や「防護用具なしに病室に送り込まないで」などと書かれたサインを持った医師・看護師が、毎週の様に抗議の声を上げている。

次のページ
日本の医療従事者へのメッセージ