下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数
※写真はイメージです (Getty Images)
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 人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は「コロナてんでんこ」。

【写真】東日本大震災後の東北の防潮堤建設工事

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 3・11、東日本大震災の津波について言われたのが「津波てんでんこ」である。津波にあったら、とにかく一人一人が高い所へ逃げろという意味であったと思う。人を待っていたり、集団で行動しようとすると逃げ遅れる。てんでんこが命を救う方法である。

 バラバラであることが、自分自身も他人も結果的に救うことになる。それには一人一人の判断が大切になるという意味だった。

 今回のコロナについてもある程度同じことが言えるのではないか。集団で行動するのをやめて、一人一人が家にこもっている。それが自分と他人の命を救う。

 多少意味は違うが、このところ私は「コロナてんでんこ」と言っている。

 てんでんこでいればコロナに感染しない。できるだけ人と会うのをやめれば「三密」の状態を作らないでいられる。

 ではなぜ人と会うことがよくないのか。その辺が詳しく説明されないので、なぜだかわからないままに、やみくもに人に会わないでいると、ストレスが溜まってくる。

 人と人が会うことで、接触や飛沫によってウイルスがうつるのだとわかっていても、もう一つ腑に落ちなかった。

 だが、様々な情報や専門家の知識をテレビで見ているうちに、私はやっと納得できる答えに出会った。

 コロナウイルスは、人から人にうつることで命を保っている。一人だけにとりついていては、時間の経過とともに息絶える。それを防ぎ、生きのびるためには、どうしても次なる人間の体を見つけて移り住まなければならない。

 人と人が接触することで、得たりやおうと出会った人の体に乗り移る。そうしてまた次その次と感染を広げて生きぬいていくのだという。
 敵も必死なのだ。次なる培養先が見つからなければ死んでしまうのだから。

 そのあたりの理屈をはっきりさせるとわかりやすいのではないか。特に若い人には、なぜ人と会ってはいけないのか、集団で行動してはいけないのか、わかっていない人が多い。ウイルスの命がけの作戦を甘く見てはいけない。自分の体にうつることも、他人にうつすことも、ウイルスに自分の体を提供して生きのびさせることになる。

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下重暁子

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下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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