石橋蓮司さんとはデビュー作「あらかじめ失われた恋人たちよ」で共演した仲だ。清水邦夫・田原総一朗の共同監督による過激なモノクロ作品。石橋さんは旅の途中で桃井さんを見初め、その恋人から彼女を奪おうとする。

「そう、私にとって蓮司はね、生まれたばっかりのアヒルが、初めて目にした動くほうきをお母さんだと思うっていう、あれと一緒。その“ほうき”が石橋蓮司なんだから。セリフが突き刺さる、ということを私は蓮司の芝居で経験した。ずっと尊敬して、あの背中を見て育っちゃったから。長い歴史のなかで『仲間』って言葉じゃ単純すぎる」

 それから49年。時代とともに自身の変化も、もちろん感じている。

「松田優作とか、芳雄ちゃんとか、いろんな人が死ぬでしょう。そのたびに『ああ、自分も死ぬんだな』って思いますよ。だからこそ生き残った私たちは長生きがどんなふうにいいのかって見せなきゃダメ。死ぬってことはわかった。じゃあ生きるってことはなんなんだよ?って。私たちに重要なのは、そっちなんだよね」

 いかに格好いい死に方をするかじゃない。どう生きるか、が問題だ。

「これからおしめもいります、ぼけもきます。そのハンディ抱えての人生の後半戦って重そうじゃない? もっと楽しいやり方が絶対あるはず。『ああ、得だわぁ、長生きって』って、やっぱりそこに行き着かなきゃならないから。もっと遊ばなきゃいけないし、少なくともやりたくない仕事をやってる場合じゃない。我々俳優もサラリーマンの人と同じで、時間に追われて仕事をしちゃってる。でも売りさばくものが『心』だったりするわけ。だから老後にお茶碗を焼く、とかじゃ取り戻せない感じがするんだよね……」

 それでもひとつ、絶対にやりたいこと、やるべきことはわかっている。2006年から始めた監督業だ。

「映画を作ることは私にはすごくフィットしている。すべてのストレスの袋はそこで燃やすことができるって感じ。私は『何か』を表現したくて、たぶん俳優ってものをやっている。表現したいものはなんなのか、まだ表現したいものがあるのか? 自分で映画を撮っているときが一番、それが明快になってくるんです。いまのたくらみはね、今年中にもう一本映画を監督できるかな、と。テーマは時間の話ですかね。やっぱり死ぬとか、老けるとか」

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