林:男は食べていけないから、今まで講談師って女性ばっかりになってたんでしょう?

伯山:そういう面も確かにあったかもしれないですね。でも、落語がすたれてるときに、(立川)談志師匠が、師匠の(柳家)小さん師匠に「師匠、どうするんですか。このままじゃ落語つぶれますよ。新しい落語をやらなきゃダメじゃないですか」って言ったら、小さん師匠が「待つんだよ。いつか時代が変わって、落語にカチッとはまるときが来る。そのときまで待つんだ」と言った。談志師匠は「そんなこと言ったって、いつまで待っても来ねえじゃねえか」と言って怒ってた。

林:ええ。

伯山:僕、畏れ多いんですが、両方の言い分が最近よくわかるんです。小さん師匠が言うように、確かにカチッとはまるときがあるんですよ。時流というか、世間の空気というかわからないですけど、講談的なものが受け入れられやすくなってきた。カチッとはまってきてる気はします。

林:伯山さんの『絶滅危惧職、講談師を生きる』を読ませていただきましたけど、談志さんに対する思い入れ、けっこう強かったんですね。

伯山:遠くから見てたからでしょうね。近くにいたら鬱陶しいおっさんだったと思いますよ(笑)。僕、それを10代で気づいてよかったです。あのカリスマ性に引かれて入っちゃう人もいると思うんですけど、僕は仏みたいな師匠(三代目神田松鯉)のもとにいることができてよかったです。うちの師匠は、ポカポカしたいいお天気みたいな人で。

林:松鯉師匠って人間国宝なんですね。すごい方を選んだんですね。

伯山:いや、選んだ人が人間国宝になったんです。それがよかったですね。喜びを共有できて。

林:でも、入門のとき、すごく態度が大きかったそうですね、伯山さん。

伯山:いま考えると、態度がデカいんじゃなくて、バカなんですね(笑)。よく弟子に取ってくれたなと思いますよ。俺、昔の写真とか見ると、いま以上に覇気がなくてひどいんです。だから僕も誰かが「弟子にして」って来たときに、見た目とか覇気のあるなしで選んじゃいけない、人って10年単位ぐらいで見ないとわからないんだなということを、写真を見てつくづく思いましたね。

【後編/「テレビは正直どうでもいい」と講談師の神田伯山 出演する理由は収入じゃない】へ続く

(構成/本誌・松岡かすみ、編集協力/一木俊雄)

週刊朝日  2020年5月1日号より抜粋