林:その方が、3回目ぐらいの会の途中で詰まって、「勉強し直してまいります」とおっしゃって、そのあと亡くなられて。

伯山:えっ、初めて聞きました、その話。

林:陽子さんとかみんなが、抱きかかえるようにしてお帰りになりましたけど、なんて切ない終わり方なんだろうと思って。もうおじいちゃんでしたけど。

伯山:二代目の晩年なんでしょうね。なんて悲しいお別れなんでしょうね。それが林さんの講談との出会いですか(笑)。

林:そうなんですけど、それから何年も講談から遠ざかってたら、突然、伯山さんというスーパースターがあらわれて、この私の力をもってしてもチケットが取れなくて(笑)。

伯山:この林さんが? すいません(笑)。会場のキャパがアイドルとはケタが違いますからね。

林:でも、ようやく正規ルートである筋から取っていただいて、「中村仲蔵」を聴かせていただきました。(立川)志の輔さんので何度も聴いてましたけど、志の輔さんのは最後泣かせるように持っていくのに対して、伯山さんのは突き放すようにクールにバシッと切った感じで、違いがおもしろいなあと思いました。

伯山:ありがとうございます。林さんがいらっしゃってるというのは、スタッフから聞いてました。

林:講談って、歴史上の実在の人物の話をしますから、ウソはつけないですよね。

伯山:でもね林さん、講談ってウソばっかりなんですよ。

林:「講釈師見てきたようなウソを言い」という川柳がありますけど。
伯山 たとえば、愛宕神社で曲垣平九郎が186段の石段を馬に乗って駆け上がったなんていうのも、ほんとは85段か86段ぐらいしかないらしいんです。ある講釈師が「86じゃ弱いから100足そう」と言って186段にしたんですよ。

林:あら、そうなんですか。

伯山:講談って、その日のいでたち、その日の天気、日時、状況を細かく描写するんですけど、ウソを明確にしゃべる。「ウソを明確に」というのが、講談にとっては大事なワードかもしれないですね。

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