その時見た花火打ち上げ用の太い筒を見て「爆弾みたいだ」と思ったことを憶えている。大林作品でも花火を作る過程でそのことが述べられていた。

「ゆっくり咲いてしんなり消えてゆく」。作品の中で花火師の親方のセリフが印象的だった。私も花火が大好きだ。子供の頃、あの無数に散ったかけらはどこに行くのだろうと、花火の終わった後の河原をさまよったこともある。

 信濃川にかかる長生橋はかつてB29に追われて戦火に逃げまどった人々の渡った橋である。

 長岡の花火でご一緒した大島監督は強烈な個性と反戦思想の持ち主だったが、大林監督は情緒的作品から始まって、死の直前に反戦と平和への祈りを作品に結実させた。人は死を前にしてもっともその人らしく個性的な花を咲かせるのだ。

週刊朝日  2020年5月1日号

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下重暁子

下重暁子

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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