2019年の台風19号の際の避難所の様子(C)朝日新聞社
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2019年の台風19号の際の避難所の様子(C)朝日新聞社

 4月13日、大雨で土砂災害の危険性があるとして、千葉県の鴨川市と南房総市に避難勧告が出された。付近の住民は速やかに避難するよう呼びかけられた。

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 だが、コロナが猛威を振るう今、避難所に行くのは「3密」に飛び込むようなもの。感染の危険を冒してでも避難するべきなのか。

『水害列島』の著書があるリバーフロント研究所技術参与の土屋信行氏は、災害時の「リスクマネジメント」の重要性を指摘する。

「新型コロナ感染と災害による被害、双方のリスクを比較して評価する必要があります。例えば小学校の体育館に1千人が避難すると、もう保菌者がいると考えるべきですし、『3密』状況での感染拡大は避けられません。もし、避難者の半数が罹患した場合、うち重症化して亡くなる人が2%程度と仮定します。一方で、大雨で河川の氾濫が起き、堤防が決壊すると、平野部に住む人たちの死亡率は8~10%と推定できる。よりリスクが高い災害による死亡者ゼロを獲得するためには、感染のリスクは背負わなければなりません」

 感染より災害のほうが死亡リスクは高く、避難を躊躇してはならないのだ。

「感染リスクをゼロにできなくても、『3密』状況の緩和は可能です。例えば、1千人を1カ所に集めるのではなく、別の場所を開放して4カ所に分散させることで密度を下げる対策はできるはずです」(土屋氏)

 医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師も、避難所での感染は避けられないと語る。

「個人でとれる感染対策は、手洗いを徹底し、避難時にマスク・アルコール消毒液・ウェットティッシュを持参するくらい。あとは避難所を管理する行政が市立病院などと連携して体調の悪い人をすぐに検査し、迅速に隔離と治療を行うことです」

 避難が長期化すると、取り残されるのは高齢者だ。

「対応が遅れると、永寿総合病院のように避難所が院内感染状態になることも考えられます。特に重症化しやすい高齢者は、症状を我慢せず医師に相談するようにしてください」(上医師)

 これからゲリラ豪雨や台風の季節を迎える。近年は大災害の頻度が上がっており、災害と感染症の“ダブル天災”は現実的リスクだ。

「避難したことで結果的に感染者が出たら、後追いの批判も出てくるでしょう。それでも、より多くの命を守る選択ができるかが大切になります」(土屋氏)

(本誌・岩下明日香)

週刊朝日  2020年5月1日号