診療報酬とは、治療を受けたときに健康保険から支払われる費用のこと。誰が、どの医療機関で、どんな治療を受けたかがわかる。

「その結果、健康保険が認められた後のグループのほうが、術後の肺炎の発症率が6割ほど下がっていたことがわかりました」

 手術を受けた約51万人のがん患者の診療報酬データを調べた東京大学の研究では、肺炎の発症率だけでなく死亡率も低かった。同大学医学系研究科公共健康医学専攻教授の康永秀生さんは言う。

「術後は患者さんの体力が低下しています。死亡については肺炎が原因かわかりませんが、肺炎が減ったことで死亡率も低下したわけですから、肺炎の影響があった可能性は高い」

 術前・術後の口腔ケアは健康保険で認められている。だが、どの医療機関でも行っているわけではなさそうだ。康永さんらの研究でも、手術を受けた約51万人のうち口腔ケアを受けていたのは約8万人だった。

 では、どうしたらいいか。前出の福與さんは「かかりつけの歯科医で診てもらってほしい」と助言する。かかりつけがない人は地域の歯科医師会に相談を。

「できれば、手術を受ける予定であることを歯科医師に告げ、口腔ケアだけでなく、ぐらついて抜けそうな歯も処置してもらってください。全身麻酔でチューブを入れる際、歯が折れたり、抜けたりすることがあるためです。また、歯科衛生士からブラッシング法などを聞いて、術前・術後も続けていくようにしましょう」

 陸川さんは「歯以外もケアして」と付け加える。

「見落としがちなのが、舌や頬の裏側の粘膜で、専用の器具などを使って磨きましょう。洗口液(マウスウォッシュ)は仕上げに使うのが望ましい」

 患者が手術前にするべきもう一つのことが、予防リハビリ、「プレハビリテーション」だ。ハーバード大の医師が名付けた造語で、手術に備えて体力アップを図るため、トレーニングなどを行うことを言う。

「手術は体に大きな負担がかかります。そのため、特に高齢者ではなかなか手術から回復できなかったり、合併症が若い人よりも起こりやすかったりします。それを予防するために、術前に体力をつけておこうというのが、プレハビリテーションのコンセプトです」

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