中国地方の検察庁に勤務している検事もこうあきれ顔で言う。

「うちは子供がおり、学校があるので4月から転校の手続きをしていました。いつまで凍結かと、検察庁に聞いても『私たちもわかりません』というばかり。子供は新しい土地で、学校に通えると楽しみにしていた。検察庁と法務省は、いったい何をしていたのでしょうか?新型コロナウイルス感染防止で、裁判所の公判まで延期になっている。引っ越しを伴う異動が、感染拡大につながりかねないことくらいわかるでしょう。うちは司法試験を合格した人の集まりなんですよ」

 現場は大混乱に陥っているのだ。なぜ、こうなったのか? 

「辻裕教事務次官がきちんと異動について森法相に話していなかった。新型コロナウイルス問題を指摘されていた辻事務次官は稲田(伸夫)検事総長を説得していったんは了解をとりつけたようです。しかし、森法相にまた反撃され、9日に凍結を言い渡された。広島地検では河井克行前法相夫妻の公職選挙法事件で大変で100日裁判も控えている。異動凍結で捜査に支障が出かねないとの声も聞こえる。まさに大失態ですよ」(前出の検察幹部)

 森法相の一喝について、黒川検事長問題で劣勢になりかけていた安倍官邸、自民党はご満悦だったという。

「国民に自粛要請し、東京など7都道府県に非常事態宣言が出ているのに、首都圏から感染者が少ない地方に異動なんて、やっちゃぁいかんよ。森法相はこれまで厳しい局面で指導力を発揮できていなかった。国会答弁でも迷走。だが、今回の異動凍結は新型コロナウイルス感染防止のためには当然で、いい仕事をしたと評価が高い。メイクだけでなく、仕事もばっちり決まってきた」(自民党幹部)

(今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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