持つべきものは良き友である。

 近しい人とのかかわりによって、死にゆく人がその直前に救われることはある。では、残された人はどうすればいいのだろう。

 藤木留美子さん(享年68)は、ネット通販の会社を営んでいた。自立した、責任感の強い女性である。その彼女を支えていたのは夫の修治さん。藤木さん夫婦は、記者の頼れる友人でもあった。そして留美子さんは死を目前にして、尊厳を感じさせた人だと思う。

 3年ほど前、留美子さんは、サルコイドーシスという難病を患った。でも病気であることを感じさせないぐらい元気な様子だった。それは病気と向き合う意識を持ち、どうすれば自分は症状を抑え込むことができるか理解していたからでもある。だから、急に体調が悪くなったときも、落ち着いていた。

「体調を崩してからいろいろと治療をするのですが、医者によると、それがかなりの苦痛を伴うらしいんですよ。でも、痛い、つらいって、一度も言ったことはありませんでした」

 と修治さんは言う。

 妻の残りの人生を悔いのないようにしたいと修治さんは心に決めた。何をしてほしいかをたずね続け、その希望に応えていった。それが「終活」だったのだろう、と振り返る。

 修治さんは日々の妻の状態や話した言葉などを日記に記録していった。楽しかったことを話したり笑い合ったりして、残り少ない一日一日を生きた。

「あなたと一番近くで人生をともに歩みます、と本気で伝えると終末期の患者は救われる」

 そう語るのは、医師の山崎章郎さんだ。

 末期がんの患者とその死に寄り添いつつ、終末期医療について考察した作品『病院で死ぬということ』の著者。現在はケアタウン小平クリニック(東京都)を拠点に、ホスピス緩和ケアに取り組み、多くの患者を支えている。

「治る見込みがない患者さんは、家族に迷惑をかけたくないから入院すると言うものです。でも、本心は家にいたいし、最期は家で、と望んでいます。いつもの光景の中で、普段どおりの暮らしを続けたい、という人がほとんどです」

 と山崎さん。そばにいる人には、こう助言をする。

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