元小樽保健所長で医師の外岡立人さんはこう訴える。

「保健所は本来、地域の公衆衛生を担う大事な組織のはずです。でも日本では、『役所の一部』の位置づけで地位が低い。自治体の指示に従う受け身の姿勢で、自らの判断で体制を強化することもできない。今回のように危機的な状況でも、対応がどうしても遅れてしまうのです」

 PCR検査を増やせば多数の感染者が判明し、病院に患者があふれて“医療崩壊”が起きるとの懸念は根強い。検査を積極的にしないことには合理的な面もあるが、医療崩壊を起こさないための準備はできていたのか。厚労省が感染症対策の調査・改善を事実上放置したり、保健所や人員を減らしたりしてきた実情を知ると、十分な対策が取れていたとは言いがたい。

 私たちにできることはなにか。

 まず、近くの診療所に信頼できる「かかりつけ医」を持とう。診療所は入院設備がないところが多いが、ほとんどの病気には対応してくれる。医師との信頼関係を築けば、急な発熱などで心配なときに電話で相談することも可能だ。重症で大病院に行く場合は、紹介状を書いてくれる。紹介状があれば初診で5千円以上の追加費用もかからない。

 病院をうまく利用することも大事だ。一般的なかぜで行っても、処置してもらえることは限られている。まずは静養して体調を見極めよう。特に現在の状況では、重症患者のために、みんなで協力することが求められる。息苦しいなどの危険な兆候があれば、遠慮せずに受診する。

 一人暮らしの高齢者は、自宅で弱っている恐れもある。普段から近所で声をかけ合って、体調が悪いときは助け合う。ネットを通じて、家族が離れて暮らす高齢者の健康状態をチェックすることもできる。支え合いを大切にしたい。

 緊急時は大病院にすぐに行くこともある。そのときに備えて、健康状態や飲んでいる薬などを普段から知っておこう。健康診断の結果やお薬手帳などの書類も保存しておく。

 新型コロナウイルスを巡っては、デマを信じてしまう人もいる。行政や報道機関の正しい情報をもとに、疑問点があればかかりつけ医らに相談しよう。家計が苦しくて病院に行きにくいなど生活面の不安があれば、一人で悩まず自治体の窓口などを活用する。

 今後も長引きそうなコロナショック。乗り切るためには私たちも自衛しないといけない。(本誌・池田正史、多田敏男)

週刊朝日  2020年4月10日号

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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