店に来ていた20代前半の姉妹は、地下鉄で一つ隣の駅の近くのスーパーに買い出しに出かけている母親と携帯電話でやりとりしていた。母親と買う商品が被らないように確認していたという。

「ヤバイですよー。ママもお米が買えなかったみたい。ウチはパパと4人家族なんだけど、自宅には残り5キロほどしかないんです」(姉)

「正直、気がつくのが遅かった。友達から『食料品は大丈夫?』てLINE(ライン)が来て慌てて出て来たんですが……」(妹)

 缶チューハイ5本に、残り少ない乾麺と冷凍うどん、ハムをカゴに入れてレジに並んでいたのは、30代半ばの非正規公務員のAさん。友人との食事後、たまたま酒を買うために立ち寄ったところ、他の客が食料品を買いあさっているのを目の当たりにして買い増すことにしたという。

「本当はカップ麺が欲しかった。明日は残業しないで真っすぐに買い物しようと思っていますが、それまでに残っているといいんですけどね」(Aさん)

「安倍首相と小池知事にだまされたのでは」と話す帰宅途中の会社員もいた。

「東京五輪の延期が決まったのが3月24日。それまで都内の感染者は、1日あたり10人前後の発生でしたから、てっきり押さえ込みに成功しているのかと思っていました。ところが延期になった途端、その翌日に40人以上の感染確認でしょ。五輪開催ありき、で政府と都庁が隠していたと疑いたくもなります」

 店内では、パニックになっていることも、殺気立った雰囲気でもなかった。見た限りでは店員に食ってかかる客もおらず、おとなしくレジ待ちしているのは、日本人ならではの美徳かもしれないとも思ったが、食料品不足が続くようになると、いつまでも我慢できるとは限らない。

 マスクがドラッグストアから消え、店員が客からひどい言葉でののしられたり、文句をつけられたりした、という事例が多く報道されていたのは記憶に新しい。

 新型コロナウイルスがもたらした災禍。パンドラの箱は開いてしまったのか? 完全に開く前に閉じて、希望を見ることができるのか? 日本はまさに正念場を迎えている。(高鍬真之)

※週刊朝日オンライン限定記事