国家公務員総合職では早稲田が上回るものの、司法試験、公認会計士試験では慶應が多い。19年の公認会計士の大学別合格者数ランキングでは、慶應は45年連続で1位。同年の司法試験でも慶應が152人で全大学の中でトップ。最近10年は慶應が早稲田を上回る状況が続いている。

 実は新しい司法試験が始まった06年より前は、早稲田が合格者数で圧倒していた。例えば05年では早稲田228人で全国でもトップだったのに対して慶應は132人。早稲田関係者は「旧司法試験では慶應に負けることはなかったのに……」とため息をつく。司法制度改革という時代の変化をうまく味方につけたのは慶應なのだろう。

 最後に、早慶の学生・卒業生としてのアイデンティティーを高めるイベントと言われる「早慶戦」についてもみておこう。冒頭のとおり、他の大学との対戦とは違い、相手が早稲田/慶應となると、熱が入る。

「運動部は早稲田のほうが総じて強いです」

 こう言うのは早慶戦をウォッチしている早稲田関係者だ。最近10年間の主な早慶戦の戦績を見てみると、早稲田39勝に対して、慶應は17勝にとどまり、確かに早稲田が強い。

 早慶戦に対する思い入れは、大学も強い。早稲田では早慶戦に勝利すると、勝利した部員に総長のポケットマネーなどでカレーをごちそうする慣例がある。慶応では塾長が高級ホテルに招待してごちそうするという。

 早稲田関係者にとって、大きなイベントとされているのは、箱根駅伝だ。年末ごろから卒業生の頭は箱根駅伝の順位がどうなるかでいっぱいになるといわれる。最近10年を見ても、連続して正月に行われる本戦を走っており、11年には総合優勝を果たすなど実績を残している。

 対して、慶應は94年以来、本戦に出場できておらず、卒業生の不満も高まっている。だが、慶應も手をこまねいているばかりではない。17年に「箱根駅伝プロジェクト」が始まった。

 競走部のOB・OGらが立ち上げたプロジェクトで、5年以内に本戦に出場し、10年以内に優勝する目標を掲げる。慶應のネットワークを活用し、寄付金を募り、練習環境の拡充に努めているという。

 早稲田関係者は「箱根駅伝は長年の積み重ねがあってこそのもの。本戦出場まで20年はかかるのでは」と冷ややかな見方をする人もいる。

 しかし、今や箱根駅伝の優勝争いの常連となった青山学院大学も、08年までの33年間は本戦に出場していなかった。それを考えれば、未来に何が起こるかわからないだろう。

 早慶の戦いが盛り上がれば、大学全体が盛り上がると言われる。令和の時代もさまざまな競い合いが見られそうだ。(本誌・吉崎洋夫)

週刊朝日  2020年3月27日号

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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