林:「しあわせに・なりたいね」という新曲(3月25日発売)聴かせていただきました。サラッと歌ってらっしゃいますけど、カップリングの「さのさ」なんか、超絶技巧を駆使して歌ってらっしゃるような気がします。

石川:日本人って、こういう感性とか声を持ってるんですよね。それと今のみんなのつぶやきとか思いに寄り添って「しあわせに・なりたいね」という歌なんです。大上段に構えるのではなく、日常の中のホッと息をつくような、そんなつぶやきの歌。

林:普遍的ないい歌詞ですよね。

石川:阿久(悠)先生がお元気だったころ、「いま日本人に何が欠乏しているのか、何が必要なのかを考えて詞を送り出すんだ」とおっしゃったんです。令和2年の今、みんなが聞きたい言葉、必要な言葉って何だろう、きっと「幸せになりたいよね」っていう言葉じゃないかな、そんなつぶやきを今回は歌ってみたいと思ったんですね。

林:そういうコンセプトを、石川さんご本人がおっしゃったんですか。

石川:そうです。いつもそうやって歌をつくります。以前は作詞作曲の大先生方と一緒に「こういうのがいいよね」「あんなのがいいよね」といろいろ言いながら歌をつくってたんですけど、今は「こういうのってどう思いますか?」って提案しながらつくってます。

林:「津軽海峡・冬景色」(1977年)は、ワープロもない時代ですから、石川さんは阿久悠さんの自筆の歌詞を最初に見た人ですよね。

石川:阿久先生は、ご自分の詞に力が入ると、表紙がつくんですよ。そこに自筆の絵が描いてあって。

林:へぇ~、初めて聞きました。絵、お上手なんですか。

石川:素晴らしいです。ペンで描いてあるんですけど、そういう表紙があって、2枚目からは「この詞はこういう……」って解説があって。

林:解説が? すごいな。

石川:新聞から何からいっぱい情報を集めて、いま日本人が心にとどめるべき詞をお考えになっていたような気がします。そういうつくり方をした歌を、私は阿久さんからも吉岡治さん(「天城越え」などを作詞)からもたくさんいただいたんですが、その先生方も天国に行ってしまわれたので、これからは自分が若い皆さんと一緒につくっていかなきゃいけないなと思ってます。

林:いろんな才能がある若い方を、石川さんご自身が見つけてくるんですか。

石川:全部自分ですね。いろいろ素敵な方たちのライブとかを拝見したりして。こう長きにわたって歌わせていただいてると、自分がやっておかなきゃいけないことというのを、ふと思ったりするんです。

>>【後編】『石川さゆりが明かす「天城越え」秘話 28歳の時に「歌えません」と断っていた…』に続く

(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)

週刊朝日  2020年3月27日号より抜粋