それを考えるとやっぱり寄席はえらい。今のところ閉める気配すらない。「なんで自粛しなきゃなんねーんだよ。とりあえずお客が来るかもしれねーんだから開けとかなきゃ損だろ」という、いい意味のノンキさ。でまた、こんな状況にもかかわらずお客さんって来るのだ。そしてよく笑ってる。ありがたいや。

 独演会が中止になりヒマを持て余していたその夜、今度は「全国の小中高校に休校を要請」だって。子どもたち、良かったら寄席に来ないか? マスクして、うがい手洗いして、くれぐれも注意してな。ちゃんと親から入場料はもらって来いよ。満員電車は避けろな。楽屋に差し入れとか無用だからな。くれるならもらうけど。これをきっかけに大人の世界を覗いてみ。世間は大騒ぎなのにこんな所でこっそりゲラゲラ笑ってる大人がいるんだよ。でもたぶんその人たちのほうが周りの大人たちより幸せそうだから。「明日、寄席に行ってみたい」ってとりあえず親に頼んでみてくれ。ダメならしょうがないけど、万一OKが出たら、落語のおじさんが手ぐすね引いて待ってるぜ。

週刊朝日  2020年3月20日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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