東芝で原発の格納容器を設計し、『原発は日本を滅ぼす』(共著、緑風出版)などの著書がある後藤政志氏は「事故炉の廃炉は全く見通せない」と話す。

「福島第一原発では1基当たり数百トンもの炉心が溶け落ち、直径30メートルの格納容器内でグチャグチャになっている。溶けた燃料がどこにあるのか正確にわからないことには先の作業へ進めませんが、事故から9年が経っても特定すらできていない。このまま取り出せないかもしれません」

 溶融燃料のある場所からは、人が即死するような高い放射線が出ている。ロボットを送り込んでいるが、それもうまくいかない。

「中の状態がわからないので、それに合わせたロボットを開発できないのです。調査の途中で止まってしまい、回収もできないロボットが何十体もあると言います。事故を起こしていない原発でも廃炉に30年かかるのに、事故炉を同じ年数で更地にするなんて無謀な考えです」(後藤氏)

 こうしたことから福島第一原発の廃炉は、費用も時間も相当膨れ上がることが予想される。経済産業省が見込んでいる廃炉費用は8兆円だが、原子力政策に提言を行う「原子力市民委員会」がはじき出した計算では30兆円に上る。

 後藤氏や筒井氏は、1986年4月に大爆発事故を起こしたソ連・ウクライナ共和国(当時)のチェルノブイリ原発で採用された石棺方式も検討すべきだという。建屋をコンクリートで固め、放射性物質を封じ込める方法だ。

「石棺なら現状の計画の6割程度にコストが抑えられる上、作業員の被曝(ひばく)も少なくて済む。原子力損害賠償・廃炉等支援機構も一度、石棺方式に言及しています。ところが地元からの反発を恐れて引っ込めてしまったのです。廃炉の難しさを考えたら石棺方式も真剣に検討すべきです」(筒井氏)

 総合的な費用を考えると、原発はコストが高いエネルギーだと指摘するのは、龍谷大学政策学部教授の大島堅一氏だ。

 経産省は2030年時点の発電コストを、原子力がキロワット時当たり10.3円以上と計算し、原発が他の電源と比べて最も安いとしている。

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