新型肺炎の騒ぎで隠れがちだが、高齢者が風邪やインフルエンザをこじらせて肺炎になる例は多い。

 東京都国立市に住む男性(82)がその娘に連れられて、かかりつけ医の新田クリニックを訪れたのは昨年2月。

「昨日あたりからおじいちゃんの様子がおかしいんです。食事も残すし、何となく元気がなくて……」

 院長の新田國夫医師が診察すると、熱は37度6分。胸部の聴診では異常な音が聞こえた。呼吸も速い。X線検査と血液検査の結果、画像には肺炎を示す特徴的な影が写り、免疫細胞の白血球と炎症反応を示す値が上昇していた。

 男性はその日から1週間、外来で抗菌薬の点滴治療を受け、回復した。

「高齢者の肺炎の特徴は、高熱や咳といった症状があまり出ないこと。何となく普段と違うから心配といって病院に連れてこられ、肺炎だったという例は少なくありません。ただ、この段階では新型肺炎の初期症状とは区別がつかないでしょう」(新田医師)

 前出の山本医師も、こんな高齢患者をよく見る。

「話す内容がちょっとおかしくなっていたり、いつも足腰がしっかりしているのに何度も転んだり、失禁したり。高齢者ではそういう症状が肺炎の症状として起こることがあります」

 肺炎は、「ウイルスや細菌など病原体に感染して起こるもの」と「それ以外のもの」に大きく分けられる。

 高齢者施設で集団感染が起こり、高齢者が多く死亡するのは、風邪やインフルエンザから肺炎にかかるケース。

 山本医師によると、ウイルスに感染すると、細菌にも感染しやすくなるのだという。

「ウイルスに感染すると気管支の粘膜がダメージを受けるため、細菌が入ってきたときに除去できなくなってしまうのです。特に高齢者は加齢によって免疫力が低下していたり、持病があったり、呼吸器の機能が弱ったりしているため、二次感染しやすく、重症化もしやすいといえるでしょう」(山本医師)

 実際、高齢者の免疫力はどれくらい低下しているのか。それを示すデータとして、大谷医師が東京医科歯科大学の廣川勝昱名誉教授の研究を紹介する。

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