高齢者にとって収入の柱は年金だが、4月からもらえる額が目減りする。「マクロ経済スライド」という仕組みが2年連続で発動されるからだ。社会保険労務士で年金に詳しい北村庄吾さんは、こう説明する。

「年金受給者にはわからないように、自動的にカットする仕組みです。年金の支給額は物価や賃金の動きに合わせて上がるはずなのに、平均余命の延びや現役世代の減少に合わせた『調整率』の分だけカットされるようになったのです」

 ほんとうはもっと増えるはずだった支給額が抑えられていることがわかる。

「物価が上がっているのに、年金の伸びが抑えられると、年金で買えるものが全体的に少なくなる。実質的に年金の価値が目減りしているのです」(北村さん)

 支出増に収入減という現実にどうすればいいのか。下に乗り切るためのポイントをまとめた。

【「家計難」を乗り切るためのポイント】
○節約術を駆使して支出を抑える
○コロナショックは慌てず冷静に
○大病院より身近な診療所を活用
○自己資金ためてできるだけ働く
お金がかからない趣味を持とう

 まずは支出を抑える。電気・ガスや携帯電話などの固定費をお得なサービスに切り替えることで、月数千円は節約できることもある。

 複数のファイナンシャルプランナーが勧めるのがキャッシュレス決済によるポイントサービスの利用。消費増税に合わせて始まった「キャッシュレス・ポイント還元事業」は6月末まで続く。9月からはマイナンバーカード所有者を対象に、上限5千円分の還元も始まる。民間のサービスも充実していて、年間数万円分をためることも夢ではない。

 コロナショックには慌てずに対応しよう。マスクの予防効果は限定的なので、高いものを無理に買う必要はない。健康食品・器具をうたうものには、効果のはっきりしないものもある。

 医療費を抑えるには大病院よりも身近な「かかりつけ医」を活用する。呼吸困難といった命に関わる症状がないなら、近くの診療所に行く。新型コロナウイルスの感染が疑われる場合は、まずは電話で相談する。

 年金は今後も目減りする方向なので、元気なうちはできるだけ長く働く。人生100年時代に備えて自己資金を用意し、一部は投資に回してもよい。

 心のゆとりも大事だ。博物館や美術館は無料のところもある。地域のサークルに参加するなどお金がかからない趣味を持って、楽しんで暮らす。負担増は笑顔で乗り切りたい。(本誌・池田正史、浅井秀樹)

週刊朝日  2020年3月13日号より抜粋

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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