「今日も来てるな、お前のお母さん」「す、いま、せ、ぬ」「なんだよ、『ぬ』って。今日で3日連続皆勤賞だぞ」。お母さんはハンカチを握り締め高座をひたすらに見つめている。どうやら息子のことが心配でならないらしい。無事学園祭が終わり、近所の居酒屋で打ち上げ。遠くのカウンターからこちらをジッと見つめる見覚えのある女。「おかーさーん。良かったらこっちで一緒に飲みませんかー!」「あらー、お邪魔じゃないですかー!?」。グラス片手に小走りで近づいてくるステージママ……すっかりご馳走になってしまった。

 それからというもの、部員はすっかりお母さんと仲良くなって家に入り浸るようになる。正直わさびはもうどうでもよい。お母さんの息子は昨年真打ち昇進し、4月3日にはお母さんの故郷福井で昇進披露落語会があるのです(息子の)。お母さん、バリバリ切符売ってます。私もお母さんのために友情出演。皆さま、お母さんを応援に良かったら来てね。

 あ、それから『落語ディーパー!』も無事3月に放送予定。いやー、相方ちっちゃくなってたなあ。なんかあったのかしら?

週刊朝日  2020年3月13日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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