親も、悔いのない別れのためにやれることがある。例えば、死後も感謝を示したり、家族が一緒に集まったりといったしかけをつくることだ。NPO法人「エンディングセンター」(代表・社会学者の井上治代さん)が取り組んでいる。

 がんで亡くなった男性は生前、自分の葬儀の日に自宅に贈り物が届くように娘に頼んだ。50本のバラと「ありがとう」のメッセージだ。妻は、夫の治療について「これでよかったのか」と悩んでいた。葬儀から帰宅して花束を受け取ると、その場で泣き崩れた。救われた気持ちになったという。

 別の男性は、死後も自分の誕生会を続けるつもりだ。子どもたち夫婦に「もうすぐ誕生日です。お店を予約しているので来てください」と毎年メッセージを送るようにセンターに依頼している。

 井上さんは言う。

「死後のしかけで、自分が生きた証しを残し、(家族らと)つながることができる。残された人にとっても心のケアになる。自分の意思でしかけていく『スピリチュアルケア』が大切です」

「メモリアルファイル」という方法もある。井上さんは、息子の20歳の誕生日にやりとりしたメモなど、自分の「人生の一ページ」を整理し、家族が見られるようにしている。死後、自分のことを思い出してもらえるようにするためだ。

 ただ、井上さんは注意を呼びかける。

「終活ブームのこともあってか、最近の高齢者はマニュアルに沿って一人で終活準備をしています。それも問題です。ご家族としっかり話して行ってほしい。親が亡くなり、役所への手続きなど一連の作業をこなしていく過程で、遺族は親の死を実感していくものです。そこに死の受容のプロセスがあります。それを全て子どもに(迷惑をかけたくないからと)手を出させぬように取り計らうのは違う。親が子どもにする最後の教育は、死を見せるということだからです」

 親と子は、別れまでの間にやっておくべきことがある。

 親は、家の片づけから自宅の売却、財産の整理などをする必要がある。「立つ鳥跡を濁さず」だ。住んでいても「ここにはもう戻らない」という覚悟を持って、家の中のものを片づけておくべきだろう。

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