「一人の愛する女」としか思っていなかった妻の中に滾(たぎ)る、物を作り出す衝動が。その熱量の大きさが。周りを無自覚に焼き尽くしていく才能という恐怖。

 そして喜美子は言う。「ハチさんおらん方が、やりたいことやれる」。朝ドラではなかなかお目にかかれない「旦那がいない方が楽」って言っちゃったね問題。

「化物」という歌を思い出す。星野源が亡き十八代目中村勘三郎を思い、作ったといわれる作品だ。

 雨あられと降りそそぐ喝采を一身に浴びても、家に帰り風呂に入る時は一人。そんな歌だ。

 たった一人になっても体の底から湧き上がる衝動。表現したいという、それを見てほしいという欲望。自分も知らない「化物」がせり上がってくる。

 何かを生み出すことの奈落の闇と孤独。喜美子は一人食卓に座る。「陶芸家にはなったけど、だいじなものを失ったね」と、息子(伊藤健太郎)は言う。それでもやっぱり彼女は穴窯の炎を燃やし続ける。妻でもあり母でもあり化物でもあるヒロインの朝ドラだ。

週刊朝日  2020年3月6日号

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カトリーヌあやこ

カトリーヌあやこ

カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など。

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