星野さんは新潟県生まれ、長岡高校の出身で、地元の人から見た越後長岡藩・河井継之助を丁寧に興味深く話した。

 磯田さんは博覧強記、他のパネリストの話を受けて新たな話題を提供し、かつ上手にまとめてくれた。シンポジウムのリード役として申し分なし。

 少し話は逸(そ)れるが、講演やシンポジウムの舞台にいると、会場がよく見える。ほぼ満席の前列に大きな頭のよめはんがいて小さく手を振るから、わたしも振った。夫婦の交感がいや増してまことに美しい。

 編集者もちらほらいた。天井を仰いでぼんやりしているのもいれば、鼻を掻(か)いているのもいる。ほら、マスクをせんかい──。念動をしても知らん顔だ。

 シンポジウムは二時間で終わり、近くの中華料理店で打ち上げをした。「ピヨコちゃん、ステージでちょこまか動くのはやめなさい」よめはんがいう。

「いや、小便が漏れそうやったんや」「ちゃんと栓をしとき」「どんな栓や」「栓は栓やろ。理屈をいいな」「はいはい、栓をします」

 打ち上げのあと、某週刊誌の編集者と会食をし、そのあと、よめはんはホテルへ、わたしは新宿の雀荘へ行った。いつものメンバーがサンマーをしている。半荘が終わるのを待ってわたしも参加した。

 半荘を十六回、一回戦から最終戦まで、わたしは一貫してツイてなかった。結果は大敗。泣きながら朝の新幹線に乗って大阪に帰り、夜まで寝た。

 真夜中に起きて風呂に入り、仕事をしようとパソコンを立ち上げたが、いつのまにか床に倒れて、また朝まで寝た。そう、わたしは一年中、眠たい。

週刊朝日  2020年3月6日号

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黒川博行

黒川博行

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

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